月にも浪にも放れない

植物を観察している大学院生のフリースペース

大学からの注意喚起メールが意味をなしていない、と感じた件

 自動車を所有している人は誰しもが知っていると思うが、任意保険において、10代・20代前半の若者を保障対象とすると保険金額が跳ね上がる。この理由は至って簡単で、運転に関する技術・経験不足による事故率が高いからである。すなわち、10代・20代前半の若者がうじゃうじゃしている大学構内・近辺は、危険運転が多発する地域である。

 そんな大学近辺で、先日、学生同士の交通事故が発生し、一方の学生が亡くなってしまうという痛ましい事故が起きた。ネットニュースによる情報*1を見れば、優先道路を走行していた自動車と側道から出てきた原付バイクが出会い頭に衝突し、原付バイクの方の学生が亡くなった、というものである。やるせなさばかりが残る。

 この事故に関して、私は何かを言える立場にない。私がこの記事で触れたいのは、この事故に関して大学側が発した注意喚起のメールについてである。上記の事故が起きた約2週間後に、全学生の元に以下のようなメールが届いた。

 【タイトル】
[重要] 【注意喚起】交通事故の防止について
【本文】
学生 各位


令和元年5月23日、元岡校区で自動車とバイクの接触による、重篤な人身事故が発生しました。

交通ルールや交通マナーを無視した運転は、重篤な事故へと繋がります。
学生諸君は、常日頃から交通ルール等を遵守し、命を大切にすることを心掛けてください。

また、皆さん一人一人が◼️大生であるという自覚を再認識したうえで、更なる安全運転を心がけてください。

 どのような印象を抱くだろうか。上記の事故の内容を知らなかったら、「ああ、誰か事故ったんだな」とさほど気にとめない内容ではなかろうか。上記の事故の内容とメールに書かれている内容に大きな矛盾があるわけではないのだが、このメールには「重篤な人身事故」の内容が書かれていない。そのため、このメールを読んだところで、何に気をつければ防げた事故だったのか、今後、私たちが何に気をつければ良いのか、という具体的なことが何も分からない。果たして、このメールは学生への注意喚起として役に立っているのだろうか。

 交通事故に関する注意喚起そのものは、とても重要である。なぜなら、世の中で日常的に起きている交通事故を防ぐために、各個人ができることは、様々な場合に起こりえる事故を事前に知り、予測しておくことくらいだからだ。事故の予測を事前にしておくと、現実に自分がその状況を前にした時に、どのような事故の可能性があるかをすぐに思い出して、事故を未然に防ぐ行動をとることが可能になる。自動車免許を持っている人は、教習所の事故シミュレーションで、右折トラックの後方にいた直進車に気づかず、その車と右折する自分が衝突してしまう事故や、渋滞している反対車線の車の隙間から歩行者が飛び出してくる事故などを経験している。免許取得中は、あんなシミュレーションが何の役に立つものか、と感じたかもしれないが、実際に運転してみると、そこでシミュレーションされた状況は山ほど経験するし、それが元となる事故がそこら中で起きていることを知る。そして、その状況を警戒しながら運転することで、事故を未然に防ぐことができる。つまり、こういったシミュレーションは、バカにできないほどの事故防止力を持つのである。

 では、身近なところで、どのタイミングでシミュレーションができるのか。第一に、もっとも簡単な方法として、日常生活の至る所で可能性を検討していく方法が挙げられる。側道から飛び出してくる車がいるかもしれないから減速しよう、ここは横断歩道がないけど、渡る歩行者が多いから、歩行者が立っていたら減速しよう、と予測していく。第二に、身近に起きたケースを知り、自分の場合に当てはめて考える方法である。できれば聞きたくないものだが、どこどこで誰かが追突されたらしい、小学生が飛び出してきたらしい、といった情報を元に、自分だったらどうできたか、と考えていく。楽しくはないが、実際に起きている事故なので、それを元にシミュレーションすることで、より起こりうる状況をシミュレーションできることになる。

 この2点目が、大学から交通事故に関する注意喚起メールを送ることの意味ではないだろうか。「君たち学生の間で〜〜〜という事故があったよ。気をつけてね」といった趣旨の内容を周知することで、学生たちに自身の運転を見直してもらい、大学構内・近辺の事故の元となる危険運転を減らしていくことが目的だと思う。そう考えると、上記の注意喚起メールは「注意喚起」の役割を果たしていないように感じる。

 おそらく、私が知らない大学・当事者側などの事情は沢山あると思う。しかし、それにしても、もう少し具体的に書ける内容がなかったのだろうかと感じてしまう。メールに書かれている「常日頃から交通ルール等を遵守し、命を大切にすること」は、多少の危険運転をする学生らを含めて誰しもが知っていることである。今更、交通事故に関する注意喚起メールで触れられ、「心掛けてください」と言われたたところで、気を引き締めるきっかけにはならない。私たちは、具体的な場所や状況を具体的に知らされることで、他人事ではなく、身近で自分の身にも起こりうる事として捉えることができる。このことを、このメールを作成した or 作成指示をした方々に知ってほしい。