月にも浪にも放れない

植物を観察している大学院生のフリースペース

学振に2回落ちて3回目に面接採用された過去を振り返る

 後輩から学振書類にコメントをつけてほしいとお願いされた。

 ああ、そんな季節か...

と、しみじみ思いながら、これまでの私の学振書類との格闘を思い出した。

 私たち大学院生が格闘する「学振」とは、日本学術振興会という「学術の振興を図ること」* を目的とした資金配分機関が、学生向けに提示してくれている研究助成の通称である。これに応募すると、まず書類で審査され、おおよそ上位17%が面接免除で採用される。そして、上位17%に食い込めなかった当落線上の5%程度が面接を受け、うち半数程度が採用となる。最終的に上位20%程度(年による変動がある)が採用される。学振に採用されると、月々20万円の給与と年間100万円前後の研究費を2,3年間得られる。これは、ほとんどの同級生が就職し、給料を得て、親から金銭的に独立するようになった頃に「まだ学生なの?」と言われがちな大学院生にとって、何ともありがたいシステムである。

 さて、そんな学振と私の格闘歴は以下の通り。

2017年 1戦目:不採用(ABCの3段階中、C評価)

2018年 2戦目:不採用(ABCの3段階中、B評価)

2019年 3戦目:面接候補→面接→採用

 面接の結果は、2019年12月26日13時20分頃に通達され、「採用」の文字を見た直後、私は泣いた。そのときまで、本当に辛かったのだ。実は、私の仲の良い友達5人のうち5人ともが、2018年の時点で学振に採用されていた。2019年の申請時期には、私1人が学振を得られていなかった。

 学振は、審査員による点数で順位付けされ、採用/不採用が決まるものであり、必ずしも研究能力や研究者の卵としての優秀さと比例しない。極端な話、研究能力が皆無でも申請書の書き方や計画内容がすごく良ければ採用され、研究能力が高くても文章力が皆無であれば不採用となる。そんなことは理解していたのだが、どうしても「私は研究能力が皆無で、文章力も皆無だから学振に採用されなかったんじゃないか、それはつまり研究者には皆目向いていない証拠なのではないだろうか」という考えが頭から離れなかった。

 一方で、こんな鬱々とした考えや気持ちを持ち続けていては、精神衛生上よろしくないということも理解しており、なんとか元気でいようと自分自身をフォローする考え方を鍛えてきた。ということで、ここに、私の中の「自分を落ち込ませる悪魔」と「自己肯定感を上げる天使」の会話を記録しておこうと思う。(おそらく、今後同じようなことを経験するだろうから、未来の私は参考にするべし。また、今の時期、昨年の私と同じ立場の人がいると思うので、そういう人たちの少しでも助けになれば嬉しい。あと、学振で悩む人の気持ちがわからない人たちにも、学振で悩むとどれだけ穿った考えになるか参考にしてほしい。)

 

 

1)書類審査前

学振に採用されたことがある人「がんばってね!君なら採用されるよ!」

悪魔「いやいや、無責任かよ。これまで落ちてるんやけど。次に通る証拠ある???」

天使「学振に採用されたことがある人の言うことを信じろ!私は頑張っているし、これまでも頑張ってきたから昨年よりは業績が確実に増えている。その頑張りと業績を踏まえた上で、私なら採用されると言ってくれているんよ。あと、私には研究費を与えるだけの価値があると思ってくれているんや。信じろ。」

 

学振申請書を書いたことがない人「がんばってね!君は採用されそう!」

悪魔「いやいや、されそうって何?学振をよく知らんのに何を根拠に言ってんの???」

天使「日々の私の言動と頑張りを踏まえた上で、私なら採用されると言ってくれているんよ!とりあえず、何も知らない人にとって、見かけだけでも優秀に見えていることを喜べ。見かけ通り、優秀であることを示せたら格好いいやろ。見かけを維持しろ。」

 

申請書を読んでくれてコメントをくれた人「もっと分かりやすく論理的に簡潔明瞭に書く努力をしてみて!」

悪魔「それができたら苦労しない」

天使「そうなるように、他にもコメントくれてるやん!コメントを参考にしていくんや!いかに微々たるところであろうとも修正を積み重ねれば、確実に分かりやすい申請書に近くはずや。コメントを読め。」

 

申請書を読んでくれてコメントをくれた人「構成を練り直した方が良いです」

悪魔「えーーーーもっと早めの段階で言ってよーーーー」

天使「文句を言うな。申請書の推敲において率直な意見ほど貴重なものはないやろ!せっかくくれたアドバイスを活かせ。私はそのアドバイスを活かす能力があると思ってくれているから言ってくれたんや。アドバイスに従え。」

 

学振システムをよく知る人「通ったらラッキーと思って頑張ってね!」

悪魔「いやいや、努力しても確実に通るか分からないって努力する気失せるやろ」

天使「真実やろ。学振の申請書に限らず、努力が必ずしも実るとは限らんやろ。何事も淡々と頑張って努力するしかないんよ。やけど、努力せんかったら絶対無理やろ?やで、やるしかないんよ。やれ。」

 

研究助成系を着実に獲得してきた人「学振は絶対とれるよ」

悪魔「過去にとれてない私を前に言うこと?」

天使「学振の申請書には書き方やコツがあるということやん!その人のアドバイス通りに修正してみ。読みやすい文章になるやろ。豪語する人は豪語するだけの実力があるんやからその秘技を学べば良いんよ。そういう人が身近におって良かったやん。私も言えるようになれ。」

 

いい加減な人「3回目なんだから通るよ」

悪魔「そんなん3回目の人みんな通るやん」

天使「それだけ努力してきたことを認めてくれてるんよ。実際、3回目なんやから1,2回目の人らより経験してるんやで。ちゃんとその努力を自分でも認めるんや。」

 

2)面接審査前 

学振面接に関する噂を聞いた人「実は面接前に順位はある程度決まっているらしいよ」

悪魔「は?元から下位にいたらダメってこと?何のための努力なう?」

天使「元から順位付けされてるんやから順位がある程度決まっていて当然やろ。書類申請時よりも業績が出てるんやから挽回できる可能性はある。自信持てや。」

 

発表練習に付き合ってくれてコメントをくれた人「それだけ業績増えてたら通るよ」

悪魔「それで通らなかったらどうしてくれる?」

天使「まともな発表してれば大丈夫な内容ということやよ。自信を持って堂々と発表しろということや。私を不採用にしたら後悔するでって思わしたれ。」

 

学振システムをよく知る人「面接では基本的に通るよ」

悪魔「え、落ちてる人存在するけど?」

天使「やらかさないように、矛盾がないように、発表内容を練って、発表練習すれば通るということや!面接にも達しなかった昨年よりは、進歩/成長したんや。自信を持て。」

 

研究助成系を着実に獲得してきた人「学振面接で落ちた人見たことない」

悪魔「やで、落ちてる人存在するけど?」

天使「学振面接にはコツがあるということやん!その人の普段の発表をみろ。分かりやすいやろ。その人のアドバイスに従ってみ。分かりやすい発表になるやろ。私も言えるようになれ。」

 

 

いい加減な人「3回目なんだから通るよ」

悪魔「面接初めてやわ」

天使「それだけ努力してきたことを認めてくれてるんよ。ちゃんとその努力を自分でも認めるんや。私は頑張ってきたから通る!って思わなあかんよ。」

 

 このくらいかな。また何か思い出したら書こう。

 ちなみに、3回ほど申請書類を書いてみたが、コレをやったから通った!みたいなものは得られていない。文章を分かりやすく、論理的に書くことを努力した結果、実際に3回目の申請書が一番分かりやすくなった。それでも面接免除採用には達しなかったのは、まだ明瞭さが足りなかったのかもしれないし、説得力が足りなかったのかもしれない。だから、書類に関してアドバイスが欲しい人は、他の人に頼むか、サイトを参照した方が良いかもしれない。それでも、参考程度に植物生態学の分野からコメントが欲しい場合はご連絡ください。あと、もし、面接候補になったなら書類よりもアドバイスできます。